『陰陽師』、ついに完結。

陰陽師 (13) (Jets comics)うおっ、完結編発見!迷わず購入。あいかわらず読解力の求められる作品だ。しかし当然のことながら全てを読み解くことはムリ。せめて表面だけでも理解したいと思いつつ、これ1冊読むのに2時間半かかってしまった。マジで誰か、全てを読み解くことができた人は「岡野玲子版『陰陽師』ガイド」を出版してください(泣)自分で読み解くことができたのはほんの少ししかない。

「晴明=はるあきら=春・秋=生命=アンク=永遠の命=トト・アンク・アメン=死と再生⇒天地創造」と来たか。陰陽道から始まって、古代エジプト思想に繋がっていったわけだが、双方の中核を担っていたのは数字。私は数字アレルギーなので、岡野玲子の『陰陽師』が、夢枕獏の原作を離れて一人歩きを始めた頃、一度読むことを断念してしまった。それほどこの作品中で数字の果たす役割は大きかった。

数字が作品の中核を担うようになってから、晴明と博雅の関係も、かつてのお気楽な友人関係ではなくなってしまった。多分、これも私が一時的にこの作品から離れた原因の一つだろうと今になって思う。かつて友人であった博雅は、最終的に晴明の守護神のような位置づけになった。晴明と博雅との関係が友人関係から別の次元のものに変わったと同時に、真葛と晴明の関係も大きな変化を遂げた。これも作品中のテーマが、古代中国思想から古代エジプト思想へと推移していった結果だろう。トト・アンク・アメン(=ツタンカーメン)とその妻の関係は、そのまま晴明と真葛に当てはめられている。

ふと思ったのは、岡野玲子版『陰陽師』の世界では、対極する2つのものが必ず存在するのでは、ということ。陰陽道の核である陰と陽が2つで1つの世界を現すが如く。陰陽道は月、古代エジプト文明は太陽。女は陰、男は陽。博雅は光、晴明は闇。晴明と憲保は互いの清と濁。真葛は家であり妻、晴明はそこに住まう主であり夫。真葛は母、晴明は父。晴明は親、小さいひとは子。晴明は小さいひと、小さいひとは晴明。比丘尼は大地であり肉、晴明は天であり血。博雅と憲保は、共(朋)に、比丘尼と晴明が交わって創られた天地の時空を繋ぐ。

安倍晴明と秦道満の対決として有名なエピソード「射覆」が完結編にも盛り込まれているのだけれども、興味深いのが、秦道満(=比丘尼)の占文が、内裏のこと(主上中宮、その妹)を告げているようで、実は晴明と真葛と比丘尼についての卦であったこと。ここまで使い倒すか、岡野玲子

夢枕獏の作品を原作としてスタートしたこの作品が、いつの間にか岡野玲子のオリジナルと化していった過程の中で、もう出てこないであろうと思われた人物や設定が、完結編に於いて次々に出てきたことには驚いた。しかもそれが確固たる伏線の結果として、だ。そして、今まで「何のことだろう」と思っていたキーワードが次々に解き明かされていく快感。泉、水、浜、数字の50と49、八つめの瓜、小さいひと。やっぱり完結編はこうでなくちゃね。何より、ハッピーエンドで終わってくれて良かった。実はハッピーエンドで終わらないんじゃないかと予想していて、それがすごく心配だった。とにかく終わった。13年の連載だったそうだ。改めて最初から読み直そうと思う。完結編でわかったことを逆に辿っていけば、また何かわかることがあるかもしれない。岡野玲子が別の傑作を生み出さない限り、こんな作品には二度とお目にかかれないだろうと思う。ああ、満足。

ここからは蛇足。岡野玲子の哲学的な台詞まわしのセンスは昔から『ファンシィ・ダンス』や『両国花錦力士』の各エピソードにつけられたタイトルに炸裂していた。(川原泉の哲学的センスとはまた方向性が違う。)でも『陰陽師』シリーズではそのセンスが作品そのものに炸裂してしまったようだ。彼女はオペラ好きでもあるようで、先述したお相撲さんマンガに『アイーダ』だの『カルメン』だの登場させてしまったこともある。どうも岡野玲子のエジプトへの傾倒の根源には『アイーダ』があるような気がするが、どうだろう。安直?

岡野玲子の頭の中はどうなっているんだろう。彼女がお相撲さんマンガや坊さんマンガを描いていた時からそう思っていたけれど、『陰陽師』がついに完結した今、「この人の頭の中をのぞいてみたい」願望は更に高まるばかりだ。ついでに言えば、かなりの料理好きであるらしい。また、かつての作品にはボンデージだのパンクだのオペラだの禅だのが節操もなく登場してきたので、かなりとっちらかった趣味のある人だという気配がある。私の中での岡野玲子のイメージは、『両国花錦力士』に登場する桜子だ。本人はそう思われて迷惑かもしれないけど(笑)

[news]山本耕史土方歳三セリフ10倍に
山本耕史(28)主演のNHK時代劇「新選組!!土方歳三最期の一日」(来年1月放送、日時未定)の制作発表が8日、都内の同局で行われた。昨年の大河ドラマ新選組!」の続編で、近藤勇の死後、箱館五稜郭を舞台に土方の生きざまを描く。大河でも土方を演じた山本は「(主役になり)セリフが10倍になってつらい。最後は死ぬことになるが死にたくない」と冗談交じりで語った。回想シーンでは大河の映像も登場する。共演は片岡愛之助吹越満ら。http://news.goo.ne.jp/news/nikkan/geino/20051009/p-et-tp0-051009-0004.html

楽しみじゃ!