さようなら

緒形拳さんが亡くなりました。

『女衒』の破天荒な主人公役が好きでした。切腹しようとして「イテー!!」って失敗したり、子どもが欲しくて70を超えても無理してみたり、どう考えてもお呼びじゃないのに「兵隊しゃーん!オナゴのことならまかしときんしゃーい!」って叫んでみたり。

吉原炎上』のおまわりさん役が好きでした。「はずす、ちゅうの知ってるか?」って聞くエロ駐在。上司に怒られても怒られてもエロ質問を続けてしまうダメおまわりでした。

砂の器』のおまわりさん役も好きでした。何も悪いことをしていないのに、心の底から善人なのに殺されてしまったあの人の運命の理不尽さを思うたびに、あの悲しそうな目を思い出すのです。

楢山節考』のあの人は、私的にレジェンドです。

阿修羅のごとく』で八千草薫が演じる妻を不倫で裏切る夫の役が好きでした。愛人にかけたつもりの電話が、妻にかかってしまったときの、声にならない驚きの表情に注目。作品中、唯一「男の立場」を語ったストーリーテラーでした。このころの緒形さんのビジュアルもとても素敵。

蝉しぐれ』不当に処刑されようとしている父親が、最後に息子に会うシーンが好きでした。貧しくとも、人として恥ずかしくない生き方をしなさいと目で語る演技。何もない寺の風景が、引き裂かれる父子の無念さを物語るようで、好きなシーンの一つです。

総白髪になってからは、それもオシャレに見えて素敵でした。こんな突然、こんな早くに亡くなるなんて、思ってもみなかっただけにとても残念です。素晴らしい映画をたくさん残してくださってありがとうございました。緒形さんが出演された映画の数々、これからも楽しんで見続けたいです。