『ラスト・コーション』

Lust,Caution

この映画、見るのをすごく楽しみにしてたんだ。トニー・レオンの最新作。評判どおりの素晴らしさでした。158分の長丁場ながら、全く時間の長さを感じませんでした。

唯一弱いなと思ったのは、主人公のマイ夫人ことワン・チアチー(タン・ウェイ)が、一度は逃げ出しておきながら、また仲間の組織に加わった理由。ちょっとはっきりしないんだけど、どんな手を使っても、イー(トニー・レオン)に会いたかったんだろうなぁ…。不幸な結末になることがわかってても。そこがなんとなく気になった以外は、ほんとにずっと画面に吸い込まれっぱなしでした。

※ここから先はネタバレするんでご注意。
この映画のトニー・レオンは、かつて見たことのない「崖っぷちな男」っぷりを見せてくれました。特におシリ。この映画に比べたら。『ブエノス・アイレス』なんかかわいいもんですよ!ベルトをムチ代わりに使うわ、拘束具代わりに使うわ、まあなんちゅうか「鬱屈した軍人のリビドーって怖いわね!」って感じでした。いくら焦らされて腹が立ったからって、そりゃないんじゃ。ウォン・カーウァイ作品で彼が演じたチャウさんとはどえらい違いです。それはそれ、これはこれでトニーがかっちょいーので構いません。

それにしてもマイ夫人と関係を持つようになってからの彼の壊れっぷりは潔い。理性とか自制心とか、彼が築き上げてきた“自分”という自分をなくしてしまうんだから。彼ともあろう人物が、あの女の正体を見抜かないんだもん。本当はなんとなくわかっていたんだろうけど、真実を知ってしまうことが怖いから、わかりたくなかったんだよね。本来の彼ならとっくに真実を突き止めていたはずなのに、それができないほどのめりこんじゃったのね。この映画のタイトルにもなっている「色」って恐ろしい。

主人公のタン・ウェイ。キレイだったなぁ。化粧していないときの方が美人というのはどうかと思いますが。いっちばん「うわーエロい」と思ったのは、日本租界のホンキュウでイーと会うシーン。日本の料亭で、客がひけたあとの広い一室で、胡坐をかいて座っているイーの膝に、猫のように「ころん」と転がって彼を見上げる彼女の小悪魔っぷりは凄まじかったです。ヘテロの男で彼女を押し倒したくない人がいたら尊敬する。それくらいスゴイ。この料亭では何も起こらないんだけど、この映画の一番の話題となっている超はげしーえちーのシーンより、よほどエロかったです。

さて、ワン・チアチーと仲間の人生を狂わせた張本人、クァンを演じたワン・リーホンのダメ優男っぷりも素晴らしかったです。なぜ行動に出なかった。なぜワン・チアチーの最初の男になってやらなかったんだ。なぜ助けてやらなかった。なぜ今さらキスなんかするんだ。なぜ行くなと言ってやらなかったんだ。彼、言ってることとは裏腹に、実は行動の人ではなかったのでした。そこがまた許しがたい。この映画の中で最もずるくて最もダメな男を熱演したワン・リーホンに拍手!彼ってアメリカ人なのに、あんなに戦時下の上海の空気をにじませててすごいなあと思ったのです。ダニエル・ウーにも言えることなんですが、海外で生まれ育った中国人って、中華圏で生まれ育った人たちよりも、よりクラッシックな雰囲気を持ってるみたい。だから時代モノにもしっくりはまるのかな。

で!私的に超ツボだったのが、トニー・レオンの妻役、イー夫人を演じたジョアン・チェン。相変わらず美しい…。彼女は中国映画界の至宝だと思います。あんなに小さい役なのに、存在感の厚いこと厚いこと。

ラストシーンにおけるイーとイー夫人の演技の素晴らしいことと言ったら鳥肌が立ったですよ。本気で。10時、処刑の時刻。暗闇の中で、マイ夫人を抱いたベッドに座り、シーツを撫でるイー。その様子を窺うイー夫人。見たことのない夫の表情と震えながら発せられる言葉に、何事かあったことを察する彼女の絶妙な立ち振る舞いに刮目せよ!この場面は本当に震えがくるほど良い。

アン・リーの作品は今まで好きじゃなかった私ですが、この作品は「やられた!」って感じ。ずるい!こんな隠し玉を持っていたなんて…。今まで中華系映画を見たことのない人にもおすすめです。あまり中華中華していないから入り込みやすいと思います。トニーがかっこいいしねえ。おシリが特に。

■Lust, Caution公式サイト
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