山猫

山猫 イタリア語・完全復元版 [DVD]

山猫 イタリア語・完全復元版 [DVD]

Bunkamuraヴィスコンティ特集をやっているので、イタリア好きの友人とヴィスコンティの『山猫』を見てきました。人物より調度品のほうにピントが合ったカメラワークを見たのは生まれて初めてかもしれません。最初から最後までヴィスコンティの美学に気圧されておなかいっぱい。ゲフー。

見所はもちろん美しいアラン・ドロンの踊るように軽やかな身のこなし。藤原竜也君もびっくりするくらいのバンビちゃんっぷりです。あー…美しい。

アラン・ドロンが扮するタンクレディが、「ガリバルディ義勇軍)に参加することにしたんで。じゃっ!」と言って叔父であるサリーナ公爵とその家族に別れを告げに行くシーン。巨大なグレートデーン(犬)が、タンクレディの手を「まふっ」て甘噛みするんですよ。手の次は袖、背後に回ってジャケットを噛み、まるで「行っちゃイヤだー」って言いたいかのように。友人とも言っていたんですが、タンクレディが馬車にパッと飛び乗り一本道を駆け去っていくまでの、犬との一連の動きはダンスそのもの。ウットリ…。ウットリしすぎて貧血起こしそうになるんじゃー!

後に婚約者となるアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)と初めて会った日のディナーシーン。ガリバルディにおける自分の武勇伝を、黒い布で隠した片目の負傷とともに自慢げに語るタンクレディのセクシーなこと。ちょうどこのシーンですなー。http://users.libero.it/emt/img/gattop03.jpg ヴィスコンティは何が私の「萌え」たり得るか知り尽くしているようです(違)。で、タンクレディの話を聞いて「んまぁ…!」っていう顔で扇をパッと広げるアンジェリカもこれまた美しい。http://zaziedajanela.no.sapo.pt/angelica.gif さらに、この二人が屋敷の中での追いかけっこ&ベッドに押し倒し&キスするシーン。おっ!?と思いきや、「結婚するまで待たないといけないよね」って。案外古風なタンクレディのセリフに笑いました。

予告を見ると「身分を越えて愛し合う二人」みたいなことが書かれてるんですけど、このカップルには最初からまったく障害などなかったので、別に身分がどうのこうのって話じゃないんじゃ…と思いました。むしろ野心のある二人なので、したたかな部分でとても良く似通っていて、ビジュアルだけでなく、性格的にもお似合いだと思いました。

さてさて。映画に登場する小物の配置、小物の使い方、人物の額に光る汗までも、すべて計算づくめ。ヴィスコンティの美学に対する執着に凄まじいものを感じました。アホな貴族たちが狂喜乱舞の舞踏会を楽しんでいる間、哀愁に自己陶酔しているサリーナ公爵がゴブレットの水を飲み干すシーン、唇から「たりー」っと、雫が流れるシーン。きっと何度も撮りなおししたに違いありません。

動物萌えという点では、サリーナ公爵に買われた娼婦が抱いていたピヨピヨの仔猫。かわええ!あのぬこ!たまらん!ウサギのシーンはえーと、それ本物ですよね。当時、PETAがなくてよかったですね、監督。

えーと。私は熱心なヴィスコンティのファンではありませんので、3時間という尺に耐え切れず、公爵が政治家になるのを断ったシーンあたりで寝ちゃいました。だって前の日あんまり寝てなかったんだもん…しかも長い。3時間6分。長すぎるって!

この作品全体を通して思ったのは、若さや美しさに対するヴィスコンティの激しい執念。『ヴェニスに死す』でも、あのキモイおっさんがタッジオ君に「キモくて醜いオッサンだと思われたくないんだモン!」という気持ちから、髪を染めたり(で、黒い汗を流す)、おしろいをぬりたくったり、口紅ひいたり、それはもう大変な無駄な努力をしてましたよね。『山猫』の場合は、サリーナ公爵の、タンクレディとアンジェリカの若く野心的なカップルの中に、もう自分の中には存在しないいろいろなものを見出したり、時代の流れを感じたりしては老いを感じ、ハラハラと涙を流すのです。ヴィスコンティの「若さ・美しさ」への執念恐るべし。

それにしても、3時間6分の長さに加え、画面の中に見るべきものがいっぱいありすぎて(ステキな調度品とか犬とかネコとかドレスとかタキシードとか、食器とか馬車とか、どこに立っていても影ができない舞踏会のシーンとか、あああ、もう何もかも!)、途中で頭痛がしてきました。

全体的には楽しい映画だったと思います。少なくとも私はいろいろ楽しめました。一度は映画館で見るべき作品だと思いますが(ありえんカメラワークと照明を中心に)、そのあとは家で何かしながらDVDでぼんやり見るのがおすすめです。見るたびに何かを発見して遊べそうな作品です。

■『山猫』(テアトルタイムズスクエアのサイト)
http://crest-inter.co.jp/yamaneko/

そうそう、8日のスマスマにアラン・ドロンが出るんですよねー。どんなおじいちゃまになってるのかなあ。見ちゃおっと。