途中から駄作に…

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

丹波哲郎主演の映画『砂の器』をDVDでレンタル。

なんていい映画なんだ。松本清張の気品ある文体に沿った風景描写に感動!最初の1時間半くらいはそう思っていたんですよ。でも、加藤剛が最後のコンサートの舞台に立った瞬間、いきなり駄作に。

加藤剛は、「NYフィルを指揮したこともある偉大な音楽家」という役どころなのに、指揮がありえないくらい稚拙。彼がピアノを弾きながら指揮をするクライマックスシーンでは、小学校で教えるあの四拍子の指揮が延々と続くですよ。しかも最後。両手のにぎり拳をブンブン上下に振る…。オケと指揮が全然合ってない…。どこがNYフィル!?しかもあのピアノのシーン。あの手、アタシの手?っていうくらいぷっくり&指が短い。あれ、どこをどう見ても男性の手じゃない。

いろんなレビューを見て回ったんだけど、意外にもあのシーンを「名場面」とレビューしている人が多くて驚いた。

加藤嘉と子役が旅をするシーンがとても美しいのに、加藤剛のせいで台無し。放浪の末、引き離される親子の別れのシーンなんか、本気で泣けるのに、加藤剛の指揮&ピアノシーンがところどころに挿入されていきなり駄作に転落。

加藤剛以外は本当に素晴らしい出来。なにかとズームアウトしていくカメラワークが若干ワンパターンなのが鬱陶しかったけど。

丹波哲郎が演じる中年刑事・今西はとても魅力的だった。面倒見がよく、気のいいお兄さんがそのまま「おじさん」になってしまったような爽やかさ。成果を挙げられず、公費で出張に行くのは気がひけるからと自分の休暇に自費で捜査の旅に出てしまう生真面目さ。犯人の生い立ちに思いを馳せて泣いてしまう涙もろさ。あぁ、丹波哲郎にラブ。

先述の加藤嘉と、子役の春田和秀による父子の放浪シーンは、周囲の景色が無情なほど美しく、余計にボロボロの二人が悲しく見える。老いた父が療養所で今西の訪問を受け、叫ぶように声をあげてむせび泣くシーンには心が痛んだ。

被害者となる元警官は緒方拳。白い制服に白い制帽。五社英雄監督の『吉原炎上』の駐在さん役を思い出した(笑)「おまえ、はずす、ちゅうこと、知っとるか?」って、あのエロ駐在。久しぶりに見たくなったなあ、『吉原炎上』。もう何回見たことか。大好きなんだもーん。

ほんとにねぇ…。加藤剛さえよければ本当にいい映画だったんだけどねぇ…。加藤剛をすべて省いて見たい映画でした。