天保十二年のシェイクスピア

蜷川幸夫の『天保十二年のシェイクスピア』を観てきました。感想はひと口で言うと、藤原竜也にキュンキュン&蜷川登場@ハプニング。

開幕前から、シェイクスピア時代の衣装を身に付けた人々が舞台の上をウロウロ。おかげでこの作品の舞台がイギリスではない、ということをすっかり失念してしまいました。で、幕が開いて「騙された」と気づいた次第です。ストーリーを知っていたにも関わらず、です。ここから一気に天保に舞台が移るのですが、何の違和感もなくギューンと引き込まれていってしまいました。恐るべし、蜷川マジック。

今日は舞台にハプニングが続出しました。まず、きじるしの王次(藤原竜也)の使う短刀が舞台から落ちちゃったです。語り部(木場勝巳)が拾い上げて絶妙の間合いで元の位置に戻しましたが、スゴイ間合いのはかり方でした。また、王次と手下が花平一家に出入りする場面で、セットが上がったり下がったりと落ち着かなかったのです。演出なのかな、と思ったのですが、「あれっ、落ちちゃった?」という誰かの声と共に、蜷川幸夫が舞台に走って登場、観客に向って一礼。なんと本気でセットがおかしくなってしまっていたらしいことが判明。蜷川幸夫本人があちこち動き回り始めて、ここで一度舞台はストップ。5分くらい止まったあと、「キャスト、121ページから」「出入りの場面からもう一度!」と業務連絡が入り、その幕は最初からやり直しに。というわけで、藤原君が大立ち回りをするカッコイイ場面を2回観るチャンスに恵まれ?ました。

客にとってはハプニングも舞台ならではのお楽しみというかオマケのようなものですから、それすらも楽しめますが、舞台装置係、あの後で怒られただろうな〜。しかも蜷川幸夫。超・超怖そうです。

いのうえひでのり版の『天保十二年のシェイクスピア』はDVDを持っているので、どうしても比較しながら観てしまったのですが、どちらもそれぞれの楽しさがありますね。いのうえ版は、もっと音楽に統一感があってロケンローだった+幕兵衛(古田新太)がもっと存在感あった。蜷川版は、舞台美術が圧倒的に優れていて、配置といいデザインといい、素晴らしかった。以前、邦画好き仲間のMさんやRさんと蜷川幸夫の何が優れていると思うか、話したことがあるのですが、「蜷川幸夫はどの役者をどの役に振って演技させるのかを掴む手腕が絶妙」という見解を思い出した次第です。

4時間という超長丁場ながら、終わってみれば「あれ、もう終わり?」という感じでした。蜷川幸夫作品といえば、重金属のような重たい舞台というイメージがあったのですが、今回の作品は、脚本が井上ひさしということもあり、適度に軽くて良かったです。

舞台装置は、かなり歌舞伎に影響を受けたつくりになっていました。背景は動かさず、可動式の座敷を、黒子が舞台に出入りさせる方法。場の転換も拍子木でチョーン。小道具も歌舞伎のように釣竿みたいなもので操作してました。蜷川は7月に歌舞伎座で『十二夜』を打ちましたが、その影響かな、と思ったです。

いよいよラスト。ダブルコールがトリプルコールになり、もう何度目のカーテンコールかわからないくらいの状態になって、蜷川幸夫が役者にまじりながら再び舞台に登場。大きな拍手とスタンディング・オーベーションが沸き起こり、まるで楽日のような雰囲気でした。あー、ほんっと楽しかった!

唐沢寿明、エロ全開。エロっていうか既に猥褻の域に到達してました…。よくぞあそこまで徹底して演じたなぁ。あの揉まれ役の中島陽子も素晴らしいっていうかスゴイ根性だと思う。毎回毎回、唐沢による壮絶なモミモミ。唐沢寿明を蜷川作品で観るのは『マクベス』に続いて二度目。全開もかなりギラギラした演技をしていましたが、今回もギラギラヌラヌラしてました。言葉で表現するのは難しい。でも、どんな格好をしていてもそれぞれのシーンでポーズがピシッと決まるかっこよさは、この人ならではの演技と思いました。

藤原竜也は、きじるしの王次。(いのうえひでのり版では阿部サダヲがやってた役。)舞台で彼を観たのは恥ずかしながら初めてのことなのですが、圧倒的な存在感のある人でした。いわゆるオイシイ役ではあるのですが、そのオイシイとこを除いても良かったです。お文と蝮の九郎治が若い衆と結束を深めている場面、王次がしゃなりしゃなりと歩いて舞台に出てくるのですが、これが実に艶っぽい!なんでも尾上菊之助女形の立ち振る舞いを指導してもらったんだとか。納得。

おみつ(篠原涼子)と恋に落ちた王次が、二人で「ランララーン♪」状態になった時の藤原君のかわいさときたら、もう犯罪。最後の最後までかわいかったー…。ハプニングの場面の大立ち回りは『新選組!』の時の沖田総司役を彷彿とさせるカッコイイ殺陣の連続!心の中で「ああん、本物の(←?)総司だわ♪」ってひとりでときめいていたのですが、後で姉と話したら、姉もそう思ってときめいていたそうです。

エピローグでの藤原君、ひとりで可愛らしかったー♪なんか、不思議です。今までテレビで彼を見ていて、それほどいいなあと思っていなかったのに、今日1日ですっかりファンになってしまいました。ちゃんと男性としてのギラギラした部分もあるのに、妙に育ちきっていない少年のようなたたずまいがミスマッチっていうところがいいんでしょうか。可愛らしくもあり、かっこよくもあり。今後どんな役者になるのか末恐ろしい。

西岡徳馬というと、真面目な役しか思い浮かばないのに、本作品では「おとぼけさん」だったのが印象的でした。夏木マリはそのまんま(笑)

一番楽しかった場は、老婆たちの群舞!煮えろ煮えたぎれぇー。歌も良かったですが、きじるしの王次とおみつを老婆たちが人形のように操る場面が、文楽みたいで楽しかったです。

ほんっと楽しかった。再演求ム。